写真家で編集者でもある都築響一さんとの初めての出会いは『珍世界紀行』という一冊の本でした。
わたしがまだ貧乏大学生の頃(貧乏は今も変わらないけれど・・・)。ヨーロッパのディープな世界がギュッと凝縮されたその本に魅せられ、6,000円ほどもする単行本を奮発して購入し(今は文庫本で安くで買えるんだね!)、お気に入りのページを何度も眺めてはその不気味でどこか可笑しい世界にうっとりしていました。
ヨーロッパよりも日本に興味が移った今ではもう読み返すことはないけれど、大事な本のひとつとして十数年以上経った今でも手元に残されています。
その都築響一さんが去年の10月、東京の向島にひっそりと美術館をオープンさせました。
その名も「大道芸術館」。
大道芸術館 museum of roadside art 都築響一コレクション
都築さんの長年のコレクションの一部を見ることができる素晴らしい施設です。
今回運良く11月に東京に行く機会を得たので、早速ひとりで潜入してきました!!!
CONTENTS
向島へ降り立つ
大道芸術館のあるのは花街として有名な墨田区の向島。地理のわからないわたしは地図アプリに案内されるまま曳舟駅に降り立ち(たぶんもっといいアクセス方法あった)、大道芸術館へと向かいます。
この日は生憎の雨。雨足が強くなる中、急いで目的地へと向かっていると、いい感じの商店街が見えました。時間があまりなかったので遠くから1枚だけ写真を撮り、そのまま通り過ぎることに・・・。
写真を見返していたら、なーんと「鳩の街」のフラッグがぶら下がっているではありませんか・・・!!ここが赤線跡の建物が残るあの有名な「鳩の街」・・・!!!赤線跡巡りを趣味にしていた十数年前、ずっといきたいと願っていた場所を通り過ぎていたとは・・・。嗚呼、次はいつ行けるだろうか。
大道芸術館
鳩の街を通りすぎ(その時は哀しいかな気付いていなかったけど)、もうそろそろ着きそう・・・?地図アプリを頼りに向かうもどこにあるのかよくわからず、ちょっと迷ってしまいました。
よーくみると・・・
「大道芸術館」の文字・・・!!!
あまりにもひっそりとしていて気づかなかったよ・・・(秘密めいていいてイイ)。こちらが三階建ての元料亭を改装したというミュージアムだったとはーーー。
あ、大事なことをひとつ言い忘れておりましたが、大道芸術館に入るには、事前にネット予約が必要になります(一番最初に言えよって感じですよね、すんません)。1ドリンク付きで2時間3,000円。ご予約はこちらから。
暖簾の後ろにはうっすらと影。くぐるとそこには・・・
胸がはだけた魅惑的な女性が・・・!!!
こちらの麗しいお方は2000年に閉館した三重県鳥羽の「元祖国際秘宝館鳥羽館・SF館」にいらっしゃったお人形。なんて神々しいお姿をしているのかしら・・・。メタリックブルーの手のひらに包まれる姿が、まるで蓮の花に浮かぶ仏さまかのよう。
1F
入口すぐ横の受付兼ミュージアムショップで手続きをすませると、まず最初にスタッフから大道芸術館についての簡単な説明があります。
【後編】の最後で紹介する予定のミュージアムショップでは、都築さん自身による展示品の解説が書かれた図録を購入できます。1冊1,100円(税込)。とても面白いのでオススメ!今回ブログ内で紹介する作品の解説はこちらの図録を元に記載しています。
まずは案内されるまま、ミュージアムショップ横のお部屋へ・・・。
こちらのお部屋はレーザーカラオケのできるVIPルーム。
まっさきに目に飛び込んでくるのがラブドールちゃん!!
なんて演技派なラブドールちゃんなのでしょう。思わず助け出したくなってしまいます。こちらは日本度最も大手で精巧なラブドールの製造販売をしている「オリエント工業」さんのもの。ラブドールについての図録解説を読んで、ちょっと感動してしまったよ・・・。
ラブドールが作られる前によく売れていたのが粗悪品の多いビニール風船の「ダッチワイフ」。買い求めにくるのはエロマニアよりも、体に障害を負っていたり、伴侶を亡くし心に傷を負うなどして女性と接することができない男性たちが思いのほか多かったそうです。それをきっかけに、単なる「性処理道具」ではなく「心に安らぎを与えてくれる」存在を作りたいという思いが芽生え、現在の精巧なラブドールへの開発へと繋がっていったとのこと。なんだか泣けてくる話ではないか・・・。
そしてこのラブドールちゃんの奥にちらっと見えているお方・・・
どえらいポーズで誘惑する秘宝館の蝋人形のおねーさま!!!
こちらは世界屈指の技術を誇る蝋人形師、松崎覚さんの手によるもの。
本来なら吸盤でガラスにくっついたタコのぬいぐるみが、上手いことお姉さまの局部を隠してくれているはずなのですが、わたしが来た時にはたまたまそれが外れていて見事ご開帳されておりました。
なんと大道芸術館は弁護士さん立ち会いの元、SNSにあげてもBAN・・・!!されないよう局部を布などで隠す等して法的にセーフな展示をしているそうです。助かるわぁ〜。
ちなみに館内のあちこちに現れるぬいぐるみたちは、都築さんがメル○リで大量に購入したもの。これらを置くことでちょっとまぬけな感じになっていいなぁ。
部屋の壁に飾られている絵は、鳥羽の秘宝館で階段部分を飾っていたブラックベルベット・ペインティング。戦後アメリカで普及した手法で、その名の通り黒のベルベット地に描かれています。
では、さっそくお部屋を出て2階へと登っていきましょう・・・。
階段(バッド・アート)
1階から3階までの繋ぐ階段壁面に展示されているのは、いわゆる「バッド・アート」(都築さんはこの名前にはいまいち納得がいっていないもよう)と呼ばれる作品たち。
ファイン・アートでもなければ、アウトサイダー・アートにも入れてもらえない不遇な作品たち・・・。(詳しくは自分で調べネ。図録にも解説あるヨ)
ここで紹介したのはほんの一部なので、ぜひ実際に訪れて見てみてください。
3F
はやる気持ちを抑えながら、まずは2階をすっと飛ばして一気に3階へ・・・!!
鳥羽SF秘宝館
はい!お待ちかねの秘宝館です・・・!!!
思ったよりもエグい世界観だったので、エログロ苦手な人ごめんなさい。見たくない人はすっ飛ばしてコチラへ(すっとばした先もエロですが・・・)。
大道芸術館の一番の目玉ともいえる展示。拷問受けてるみたいな人もいるし、カプセルに入った脳みそや体のパーツで囲まれてるし、なんだかとっても怖いような・・・??
ただの意味のないエログロ展示なのかと思いきや、どうやらちゃんとしたストーリーがあるようです。
鳥羽のメインテーマは「エロ宇宙の未来旅」。1999年のノストラダムスの大予言の通り、地球滅亡の危機にあった地球に宇宙から帰ってきた宇宙戦闘艦。宇宙基地総督のヒトリー将軍(もしやヒ○ラーとかけてる?)指揮のもと人類再生のための超未来人間製造プロジェクトに着手します。
(1)生存者は狩り集められ、優秀な男性から強制的に機械で性液を搾取
(2)美女にのみ性液を強制注入
刺激強すぎ・・・!?ほんとにバーンされちゃわない・・・!??(危ない橋を渡っている気がする)
(3)生まれた胎児は成長増進カプセルに入れられ、たったの3ヶ月で18歳の体に成長
(4)審査に落ちた者は生体消滅処理装置で片付けられる(エグい)
いやー、正直ちょっとわたしの好きな秘宝館のエロ・エンターテイメントよりもグロ要素が強くて「ひーーーーー」ってなりました。
秘宝館の思い出
全盛期には全国で20カ所近くあったという秘宝館も、現在では残念ながら2カ所しか残っていないそうです。
わたしがこれまでに訪れた秘宝館は3カ所。その時の思い出のカケラをちょっとだけお裾分け・・・。
まずひとつ目は、今でも現役の熱海秘宝館(中は一部を除いてほぼ撮影禁止だったような?)。
お次は大分県の別府秘宝館(2011年閉館)。
そして最後はこちら。九州は佐賀が誇る最強&最高の嬉野観光秘宝館です!!!(わたしにめちゃくちゃ惜しまれつつ2014年に閉館)
館内には様々な性にまつわる愉快な展示があるのですが、中でも最後に現れる「ハーレム」の素晴らしさといったら・・・!!!
数えてみたらこれまでに4、5回は訪れていたもよう・・・。それほど大好きな秘宝館でした(実は2023年4月時点のブログTOP画像は、ハーレムのフィルム写真だったりする)。
最後に訪れたのは閉館の際に行われた「嬉野観光秘宝館のお葬式」というイベント。都築響一さんもトークショーで参加していました。
その他にもハーレムを舞台にしたライブやダンス、最後には展示品のオークションまで・・・!!(わたしは時間の関係上、オークションの途中で泣く泣く退出。お葬式を最後まで見届けたかった・・・)。
本当に最高に大大大好きな秘宝館でした!!!
あと、実は2016年に東京で行われた都築さんによる展示「神は局部に宿る」(なんて神タイトルだ!)にも行ったことがあって、こちらでも同じ鳥羽のお人形が展示されていました(ラブドールもいたよ)。
以上、わたしの秘宝館メモリーでした!
蝋人形とガーナのポスター
3Fには鳥羽SF秘宝館の展示フロアの他に小部屋があります。
1階のVIPルームにも展示されていた松崎氏によるまるで生きているかのような2体の蝋人形。一般的な蝋人形は石膏の型に蝋を流し込んで作った人体に彩色していくらしいのですが、松崎氏はまずベースとなる蝋の上に濃い色の蝋で作った血管を重ね、さらにその上に半透明の蝋を重ねるといった気が遠くなるような手法で、まるで本物の人体のような皮膚を表現しているとのこと・・・!!蝋人形への狂気じみた愛を感じる・・・!!!
そしてその蝋人形たちの周囲を強烈に彩るのが、エネルギーに満ちあふれたガーナの手描き映画ポスターたち。ガーナで1980年代から1990年代にかけて流行った「モービルシネマ」という移動式映画の上映宣伝のために製作されたもの。
それらは上映する映画を実際に観たことがない、街角の看板を製作する人たちによって描かれました。描き手の縦横無尽に飛び回る想像力により、映画の内容とはずいぶんとかけ離れたポスターが量産されたそうです。
トイレ1:骸骨と女
3Fのトイレにも抜かりなく展示品の数々が。まずひとつめの個室を覗くと・・・
美しい女性が骸骨と戯れる退廃的で淫靡なモノクロ写真たち・・・。「メメント・モリ(=死を想え)」を暗示させるこれらの写真は、おそらく戦前にヨーロッパで撮影されたもので、都築さんがまだチェコとスロバキアに分かれる前の1986年のプラハの古書店で購入したそうです。
実はわたくし、大学時代に出会ったヤン・シュヴァンクマイエルの映像をきっかけにチェコ大好き人間となり、一時期どっぷりとそっちの世界に浸かっていた時期がアリ。まさかその思い出深いプラハで購入したヴィンテージ写真だったとは・・・!!(とてもうれしい)
トイレ2:キャバレー・ベラミ
さらにもうひとつのトイレは、これまた自分にとって印象深い展示空間となっておりました。
昭和40年代に全盛を誇ったという北九州の若松にあったキャバレー・ベラミの従業員寮(現在ではベラミ山荘と呼ばれています)からわんさか出てきたという演者ブロマイドが、黒に塗られた四方の壁一面にびっしりと飾られています。
なんとこちらのベラミ山荘、福岡市のイムズ内にあったアルティアム(ここも閉館しちゃったね・・・)で2016開催の『都築響一 僕的九州遺産』という展示の関連イベントとして開催されたバスツアーで行ったことがありました!!!(もちろん都築さん本人による案内)
このバスツアーでは他にも福岡市内の様々なディープスポットを巡りとっても楽しい1日となりました。
ツアー終盤にバスの運転ミスで、背面のガラス窓がバッキバキになったことは良い思い出です・・・。
さらにいうなら、その後福岡の赤坂にあるギャラリー・ルーモさん(こちらは近々移転するもよう)で2017年に開催された「キャバレーベラミの記憶展」に行ったことも記憶に新しい(とはいってももう6年近く前・・・?こ、こわい!!!)。
「ザ・インパルス」という夫婦のユニットで日本全国のキャバレーやホテルなどで踊り、キャバレー・ベラミでもよく踊っていたという木村勝見さんによるトークショーに参加すると、なんとサプライズゲストとして都築さんもご登場。
いやぁーーー、懐かしい!!!(気付けば「私的都築響一回顧展」みたいになってるw)
実はこのトイレを見た時に(覚えてますか?元々は大道芸術館のトイレの話ですよ!)、わたしがグッときたのはキャバレー・ベラミのブロマイドに関してだけではありませんでした。
漆黒に塗られたトイレの壁。それを観た瞬間頭にパッと浮かんだのが、同じく北九州の小倉に現在でもある薔薇族専門映画館(1階はピンク映画、2階でゲイ映画を上映)で、昔は男性のストリップショーも行われたいた「小倉名画座」のトイレでした。
ハッテン場としても利用されているという小倉名画座の黒塗りトイレの壁面には、様々な際どいメッセージが書き込まれております・・・。
詳しくお読みになりたい方はこちらのブログにて▼▼▼
都築さんが狙って真っ黒な壁にしたのかはわかりませんが、わたしの中では完璧に繋がってしまいました。
そんなこんなで盛りだくさん!!隅から隅までたのしくて始終興奮しっぱなし。2時間制限があることをハッと思い出し、名残惜しく思いながらもそろそろすっ飛ばした2階へと降りることにいたしましょう・・・。
【使用カメラ】digital:SIGMA dp3 quattro、FUJIFILM X-T3、iPhone等、film:CONTAX T2(モノクロ自家現像)
【後編】へとつづく▼▼▼