彷徨する旅のアーカイブ

旅先や日常で出会った「非日常」の記録

⑥秋田・青森ひとり旅2024-2025【男鹿・雷雪と芦沢のナマハゲ編】

大晦日の夜、男鹿市内の多くの地区で行われているナマハゲ。観光行事ではない大昔から続いてきた民俗行事としてのナマハゲを実際に見てみたい。そう思った時に、一番最初に頭に浮かんだのが芦沢地区のナマハゲでした。

CONTENS

芦沢のナマハゲ

シャルル・フレジェの写真集

きっかけはシャルル・フレジェの写真集。きっとお祭りや仮面好きのみなさまなら持っている人も多いのではないでしょうか。実際の祭りの様子ではなく、写真家の明確なイメージのもと撮られた(背景や、おそらくポーズも指示して)アート写真集っといった感じ。まるで夢の中にいるようなどこか不穏な雰囲気もあってわたしは大好きです。

『YOKAI NO SHIMA 日本の祝祭ー万物に宿る神々の仮装』シャルル・フレジェ(青幻舎)

そのトップバッターを飾っていたのがこちらの芦沢のナマハゲでした。今までのナマハゲのイメージとはまったく違うその風貌にビックリ!その時初めてナマハゲが地域によって様々な姿をしていることを知りました。最初に会うなら、芦沢のナマハゲがいいな。そんな風に思ったのがはじまり。

その写真が使われたポスター(秋田県横手市にて)

芦沢町内会館へ

今回現地でナマハゲの情報収集をしてくださった秋田在住のFさまと合流。車でぴゅん!っと連れてってくださることに〜。ありがとうございます!!ちょっと心配なのは、Fさまも関係者から最終的に見学の約束を取り付けられていないとうこと・・・。どきどきしながら16時から準備が行われるという芦沢町内会館へと向かうと、すでに人々が集まっていました。ここで断られたらエンド!駆け寄ってかくかくじかじか・・・。すると、準備するところから見させていただけることに・・・!!ありがとうございます!!!

館内に足を踏み入れるとそこにはすでにナマハゲ面がずらり・・・っ。 目はぐりっと飛び出し、笑ってるような口からは角と同じく鋭い牙。ザルを土台に作られた顔は、人間の顔の何倍もの大きさです。こちらの面は5年ほど前に作り直されたものとのことでした。

実は1980年代の中頃から10年以上前くらいまでは、石川面という観光用のナマハゲ面を使用していたそうです。

それがこちらの石川面。旧来のナマハゲ面と一緒に徘徊します

やっぱりこれじゃいかんとなって、岡本太郎も魅了されたという旧来のナマハゲ面を作り直したんだとか。詳しくは以下新聞にて。

新聞記事より(ネットで拾った画像ですが見つけられず・・・)
岡本太郎と芦沢のナマハゲ

2023年、福岡の九州芸文館で行われた展示会「岡本太郎の写真  日本を見つめる眼」を見に行きました。正直、岡本太朗の絵画や造形物ってそれほどピンとこなかったのですが(太陽の塔は好き。中にまだ入ったことないから行きたい)その写真の数々がとても素晴らしくて・・・!!!

実際に岡本太郎が使っていたカメラのひとつ。その隣には芦沢のナマハゲが表紙の岡本太郎著『日本再発見』

岡本太郎はこんな風に何台ものカメラをぶら下げて撮っていたそうです。私と一緒だ!芸術は爆発だーーー!!!(言いたかっただけ)

そこには芦沢のナマハゲの写真も展示されていました。 すごい迫力・・・。現在の目がくりくりっとした面よりもっと鋭くてなんだかこわい!!!モノクロによりさらに迫力が増しているような気がします。

興奮でシャッターが止まらない様子が伝わってきます

ところで、第2次大戦終了後、男鹿を中心にナマハゲコンクールが開かれるようになったそうです。芦沢の面は1956(昭和31)年にコンクールに参加するために目鼻立ちを大きくし、見事第2位に輝いたことがあるんだとか。その前は今よりももっとおとなしい顔立ちだったそうです。

この岡本太郎の写真を見て、ナマハゲを実際に見てみたいなぁ。そう改めて思ったのが2023年の11月末。その約1年後に実際に見にいくことになるなんて思ってもみませんでした。願えば叶うものなのですねぇ・・・。

ナマハゲさまお着替えタイム

話は戻り、舞台は大晦日の芦沢町内会館です。木札が立てかけられた床間では、お酒とお米、お塩がお供えされていました。

真ん中の札には「船川神社」と書かれています

昔は芦沢神社に面は保管していたそう。あぁ!やっぱり!!今は保管していないとしても、現地に赴きたかった・・・。次回こそは・・・

いよいよお着替えタイムのスタートです!部屋の隅には「ケデ」と呼ばれるナマハゲが身にまとう藁の衣服がロール巻きのようにお行儀よく丸まっていました。

めちゃくちゃ長い!こういうものを作っているところもいつか見学したいなぁ

もちろん一人では着ることができないので、みんなで協力して巻き巻きしていきます。着物を着る時と同じく襟が右前になるように重ねてぐるーっと体に巻き付けて、さらに腰にも巻いていきます。

最後は腰のあたりでぎゅっと結びます

上半身と下半身が一枚のケデで隠れるようにこんなに長く作ってたのね。一度で着れるからとても合理的。素晴らしい・・・!!!(ケデも地域によって違いがあるらしい)

着せつけていくと同時に藁もどんどん落ちていきます。つまりはご利益もらい放題です・・・!!(ナマハゲさまの藁を拾うとご利益があるのよ)

ちゃんとお掃除する係の人もいます

また一人、また一人とケデに包まれていき、ナマハゲさまに変化する準備が少しずつ整っていきます。皆さま巻き終わって、お次はナマハゲ面に神様を入れてもらうための神職さん待ち。でもなかなかこない・・・。なんと神職さん、時間を間違えていたそうです・・・!!申し訳なさそうに遅れてやってきた神職さん。床間で祝詞をあげて、ナマハゲ面に神様を入れてもらいます。

それが終わるとみんなで御神酒をいただき、身も心も清められ、準備は万端。

懐かしい昭和レトロな水玉の湯呑み

そしていよいよ・・・。

出番です

ナマハゲさまの誕生です・・・!!!

ドドーーーン!!!

お顔、やっぱりおっきい!!!身につけるとすごいインパクトです。こんなおっきいのどうやって装着してるんだろう・・・。と思ったら、裏側見せてくださいました。

キャッチャーマスク・・・!!!

なるほど、これは名案です。マスクを作った人もこんな風な使われ方されるとは思ってなかったことでしょう。そして手にはめちゃくちゃ長い包丁・・・!!!これは昔は刀だった名残だそうです。

あるナマハゲさまは爪先に真っ黒なネイル。「ナマハゲ仕様ですか?」と聞いたら単なるオシャレだった!笑

男性も普通にネイルをする時代。それが令和なのだ

ナマハゲさまやお家を訪問するためにお伺いをたてる「先立」などが持つ道具には他にも色々あって、御幣や鎖のついた棒や、家々をまわっていただいたお酒やお餅(今はお餅を差し出す人は少ないのかな?)を入れる桶などがあります。

こちらは木の包丁で金属製の缶をガンガン叩いてナマハゲまさの登場を盛り上げるためのもの。最後にはボッコボッコになってました笑

いただいたお酒などを入れる桶

準備の整ったナマハゲさま勢揃いで記念写真パシャリ。うぅーーーん、1匹だけでもすごいのにこんだけ揃うとすごい迫力だ。

出発〜大晦日のナマハゲ追っかけ

芦沢地区は広いので、3チームに分かれて家々を周るらしい。たくさん家はあるけどナマハゲを受け入れてくれるのは100軒程度ということでした。

2チームは車で運ばれ、坂の上の方から降りていく流れ。お祭りを追っかけてると全国でお見かけするトラックの荷台で運ばれる人々。わたしはこの姿を見るのが大好物なのであります。

いってらっしゃい!

雪がちらついているのに空を見上げると星も見えていて不思議なお天気。寒空の下、いよいよ最後にわたしたちが追っかけるチームの出発です。

写真撮るのが下手なんで、たいして星が見えませんね・・・

お店もほぼなくて、夜になると真っ暗!

ナマハゲは地区によっては前もって回覧板などでナマハゲに来てほしい人は連絡するようお知らせがまわってくるところもあるらしいですが、芦沢のナマハゲはぶっつけ本番!先立が先に家に赴き、ナマハゲOKか確認しに行きます。オッケーがでるといよいよナマハゲさまのお出まし。

薄暗い芦沢の夜に金属缶のお囃子と共に響き渡るナマハゲの野太い声・・・!!!お家へと突撃していきます(普通の民家なので見学は遠くからひかえめにね)。

闇夜に浮かび上がるナマハゲさまはまた格別

お家の中に入ることもあれば、玄関先だけで終わるところなど、お家によって様々(ついていったとこはほぼ玄関だったような気がします)。芦沢地区でも本来は四股を踏むけど、省略しているらしい。午前中に伝承館で見た真山地区のナマハゲと四股を踏む数も同じで、そのタイミングは玄関入るところで7、部屋の中で5、出る時に3とのことでした。見たかったなー。

ナマハゲさまが去った後にご祝儀を渡されています

途中まで一緒にナマハゲを見学させていただいた方は男鹿の別地区で生まれ育ったようで、子供の頃はナマハゲに袋に入れられたことがあるそうな。貴重な体験!今ではコンプラ的に難しいのでしょうねぇ・・・。ナマハゲには「かますかつぎ」という役割の人が一緒に行動するらしい。「かます」とは農作物を入れるための袋。きっとこの袋に入れられたのだと思われる。

ナマハゲと対等に渡り合うおじいちゃん

とあるお家では、ナマハゲさまが登場するやいなや、ナマハゲ顔負けの口上を述べてナマハゲを迎えるおじいさまに遭遇・・・!!!その一部始終をFさまからいただいた動画をもとに書き出してみました。

おじいさん「(うんぬんかんぬん)朝餉ははよぉー起きていっしょーけんめい働いておりましたぁー!」

なまはげ「ゔぉーーーーーーーー」

おじいさん「ナマハゲさんのおかげで一生懸命我が家も勤めて参りましたぁーーー!」

なまはげ「ゔぉーーーーーーーー」

おじいさん「今年の厄もじぇーーーんぶ持っていてもらうことをお願いいたしましたぁーーーー!」

なまはげ「ゔぉーーーーーーーー」

その様子にナマハゲさまも吃驚!もうナマハゲさまが「ゔぉーーーーーー」と返事をするくらいしかできないほどおじいさまの独壇場。めちゃくちゃ楽しかったーーー!!!

吹雪と雷鳴とナマハゲ

雪の降り続く大晦日の夜。ナマハゲさまたちはちっとも寒いそぶりを見せず、次々にお家をまわっていきます。

すると突然ピカッと周囲が輝き、その刹那闇夜に浮かび上がる迫力満点のナマハゲさま・・・。その直後にはゴロゴロゴロと轟く雷鳴・・・!!その神がかりっぷりにゾクゾクしてしまいました・・・。

窓から見つめる住人に向かって語りかけるナマハゲさま。その瞬間に雷鳴が轟きみんなビックリ!「雷雪」と言って、冬の雷は夏のそれよりも威力がすごくて恐ろしいものらしい・・・ドキドキ

ちょっとだけナマハゲから人に戻ってタバコ休憩もしたり・・・。

そんな瞬間も見れるのが嬉しい
「いちりきや」のおじいちゃんとの再会

嬉しい再会がありました!なんと、数時間前に訪れたあの「いちりきや」も芦沢地区のナマハゲさまのフィールドだったの!!!

もうわたしはこの時点で大興奮!まず先立がおうちの中にお伺いをたてにいくと、残念ながら事情により中には入れないとのこと ・ ・ ・。

ナマハゲはその年にご不幸があったり、病気があったり、子供が生まれたりしたお家には入れないことになっています。その場に居合わせた時は、ナマハゲが穢に触れてしまうことを禁忌としているような雰囲気を感じました。おもしろい・・・。

家の中には入れないので、おじいちゃんが中から出てきてくれました。

「おじいちゃん!わたしだよ・・・!!!」

喜びのあまり必死でアピール!!すると気付いてくれてお互いにニッコニコで手をガシーーーっと握り合ってしまいました。 もうね、胸いっぱい・・・!!!大好き、おじいちゃん・・・・!!!!

忘れた折り畳み傘を回収するラストチャンスでしたね(もちろん逃しました)
ワインもたしなむナマハゲ

とあるお家(店)では、お許しをいただけて中で見学させてもらえました。よろこび!

こちらではナマハゲさまをオシャンなワインでおもてなし。今はお酒を出すところは少ないらしい。今はお酒が飲める歳になってたけれど、去年は未成年だったナマハゲさまのために缶コーヒーも出てきたお家もありました(やさしいね)。

角が折れるハプニング・・・!

ますます吹雪いてますが、それきしのことでナマハゲさまはびくともしません。

この後にもいくつかの家々を周っていくうちに、なんと青ナマハゲの角が取れるというハプニングも・・・!!!

右の角が取れてしまった

それどころか、金属缶をガンガン叩いてお囃子として活躍してた木の包丁も折れてしまうという・・・。(角は長いから家のあちこちにぶつかって壊れることも多いらしい)

合流

そんなこんなで会館を18時過ぎに出発して、すべてが終わったのは20時半頃。それぞれ分かれて芦沢地区の家々をまわっていた3チームが中間地点で大集合します。

その場でナマハゲ面や身に纏っていたケデを脱いでトラックの荷台に積み入れお片付け。

ケデをくるくるくる。地域によっては神社の柱や狛犬、御神木等に巻き付けたりするようですが(いつか見てみたい!)、芦沢地区では燃やすとのことでした

お砂糖まぶされて美味しそうなナマハゲ面

その様子を見守っていると、遠くで撮影大会が行われているではありませんか・・・!!大急ぎで駆け寄って便乗だ・・・っ。

最高の一枚が撮れました!!ありがとうございます・・・!!!

歌舞伎みたいでかっこいい!って思ったら、仮面ライダーのポーズをしてたらしい笑

装束をトラックに積み終わり、みんなでぞろぞろ歩いて会館へと向かいます。

歩きながら御年65歳の会長さんにちょっとだけお話を伺うことができました。会長さんはナマハゲ暦50年(となると、15歳の頃から!?)という猛者。今年は会館でお留守番してた同級生のおじさまと、若かりし頃は家々を最初から最後まで全部まわり、夜中の0時を過ぎることもあったとか。ベロンベロンに酔っ払って大変だったようです。 うーん、タフすぎる!!!そんな時代のナマハゲも見てみたかったなぁー。

今回家々をまわっていて、会長さん嬉しかったこと。とあるお家でお膳にりっぱなお食事を用意してくれていたらしい。鯛となますと甘い豆(黒豆ではなかったらしい。なんの料理だろう?)。焼き魚は昔は鯛ではなく、ハタハタだったそうな。今は高級魚すぎて気軽に食べれないものね。昔は買うものではなくてもらうもので、ポリバケツにたくさん持ってきて「どれだけいる?」って言われるくらい大漁だったよう。海に打ち上げられたブリコをすくって食べたりも(今は禁止されている)。塩っけがたいそう美味しかったらしい!「はて?ブリコとは??」と思ったら卵のことでした。メスは卵があるから高くてオスは安いらしい。ハタハタもブリコも食べたことないから食べたーい!ますます今回食べれなかったハタハタへの想いがつのるのでありました。

直会

会館に到着すると直会の準備が始まっていました。

ナマハゲさま。塩でお清め?って思ったら雪でした。寒かったね!お疲れ様!!

桶には人々からいただいたお酒がこんもり

わたしたちもちょっとだけお邪魔させてもらうことに。地元の方とお話させていただく機会なかなかないのでとても嬉しかったです。

かんぱーい!!!

最後は会長さんの挨拶で締め!会長さんと同級生のおふたりは、一足先に千鳥足で仲良く帰っていきました。体が歳をとっただけで、きっと今も昔も変わらない関係。とっても素敵だ。その姿がとても美しく眩しくて、なんだかジン!としてちょっぴり泣きそうになるのでした。

まだ宴会は続くようですが、わたしたちもこの辺でお暇を・・・。一生忘れられない、とっても楽しい大晦日の夜でした。意外だったのは、てっきり観光客は積極的には受け入れていないのだと思ったら、見学はぜんぜんカモン!とのこと。福岡からたくさん連れてきてと言われたので、いつの日か芦沢のナマハゲ見学ツアーを開催したいと思います笑

快く見学させていただき、本当にありがとうございました!!!

■参考文献・サイト

『岡本太郎「藝術風土記」岡本太郎が見た50年前の日本』川崎市岡本太郎美術館

おおみそか《芦沢のナマハゲ》|男鹿ブロ - 秋田県男鹿市の観光情報満載ブログ

おわりとはじまりにおとずれるもの|男鹿ブロ - 秋田県男鹿市の観光情報満載ブログ

「どちらのナマハゲさんですか」 大みそかの夜 親子で「うおーっ」 [秋田県]:朝日新聞

⑦秋田・青森ひとり旅2024-2025につづく▼▼▼