彷徨する旅のアーカイブ

旅先や日常で出会った「非日常」の記録

④竹田キリシタンを巡る旅【雨に濡れた月を愛でる】

天気予報ではすでに雨マークの時間帯であるにも関わらず、幸運なことに今のところ止んでいます。いつ降り出すかもしれない雨に怯えながらジョアンさんを出発!

CONTENS

鏡処刑場跡

数分自転車を走らせていると、道路沿いに小さな広場が現れます。少し窪んだ空間の中央では3本の石塔が静かに存在感を放っていました。

岡藩の鏡処刑場跡です。

ここでは明暦年間から安永年間の間に、44名のキリシタンが火あぶりや斬首によって処刑されました。その中には小さな子供もいたそうです。

雨の処刑場ほど寂しいものはありません

中央と右の石塔には「南無阿弥陀仏」と「南無妙法蓮華経」の文字が刻まれています。これらは処刑された人々の霊を慰めるために天明年間(1781~1789年)に建てられたもの。一番左の短い供養塔は水害によって破壊された一部で、元々は「南無阿弥陀仏」と書かれていたようです。

「無」(下半分)「阿」(上半分)の文字が見えます

キリシタンたちを悼むかのように、石の隙間からタンポポが咲いていました。

とても印象的でした

江戸時代の処刑は見せしめの意味があるため、人の往来が多く、なおかつ都心から離れている(野犬がきたり悪臭が起きるから)郊外に設置されることが多かったようです。ここもまさにそんな感じ。

きっと石塔があることすら気付かず、ただ車で通り過ぎる人も多いんだろうなぁ。怖いという印象はあまりなく、ひっそりとしていて、ただただ寂しい・・・。そんな場所でした。

予定変更

当初はこの後すぐにレンタサイクルを返却し、街中をうろつく予定でした。が!今朝荷物を預けたドミトリーでわたしは素晴らしく有益な情報を得てしまったのだ。予定は変更せざるを得ません・・・!

トンネルを抜け・・・

さらにもうひとつのトンネルを抜けると・・・(朝から何回目?)

どんよりとした空を映した灰色の川が現れました。

稲葉川

いよいよぽつりぽつりと降り出した雨が水面に波紋を描いています。

不思議な植物

三日月岩

小雨に打たれながら川沿いを進んでいくと、しっとりと濡れて輝く細い月が目の前に現れました。

中国の山水画のような世界

木々の隙間から顔を覗かせている崖に刻まれた月の名は「三日月岩」。

解説板

以下掲示板より抜粋。

岡城二の丸月見櫓の北側、清水門を下り谷が開けると稲葉川のせせらぎが聞こえてきます。三日月淵といわれる川の深みに音は吸い込まれ、川の浸蝕作用によって岸壁となった阿蘇溶結凝灰岩に大きな三日月が彫られています。(中略)阿蘇溶結凝灰岩に彫られた月は、新月になる前、二十六日目ぐらいの月である。(中略)月の中には、元禄十五年八月堀之 の文字と灯明皿を置くための四つの台を彫り込んであります。(中略)この三日月は、一年前に茶屋ができ、三日月淵が殿の水浴場であったことから、殿様の風流遊びのために彫られたものです。

三日月岩と呼ばれつつも、なんと実際に彫られているのは二十六夜の月なのですね(三日月とは逆の形)。この月は五代藩主の久通侯の風流遊びのため、元禄15(1702)年に彫られたもので、つまりは今から約321年も前からあるというのだから驚きです。

三日月岩と二十六夜の謎

なぜ三日月岩と呼ばれているのに、三日月ではなく二十六夜の月が彫られているのでしょうか?お殿様が二十六夜を彫れと言ったの?それとも三日月を彫るように言ったのに、彫った人が間違った??(そんなことってある???)

突然ですが、ここで質問です。

「二十六」という数字聞いて何か思い出しませんか?

二十六・・・ニジュウロク・・・にじゅうろく・・・・・

日本二十六聖人記念館のレリーフ(長崎市)

二十六聖人・・・!!!

そう、秀吉の命によって処刑された外国人宣教師含む二十六名のキリシタン。二十六夜の月はこの「日本二十六聖人」を意味しているのではないかというのです・・・。

今朝ドミトリーでこの話を教えてもらった瞬間、テンションが爆上がりしてしまいました。なぜならわたしがキリシタンに対して深く掘り下げるきっかけとなったのが、今年の2月に長崎で訪れた日本二十六聖人記念館だったからです。まさか今回の竹田旅で二十六聖人の言葉を耳にすることになるとは・・・。

潜伏下のキリシタンたちは、観音像をマリアに見立てたり等、カモフラージュしながら信仰を続けてきたことは以前話した通り。ただ、キリシタンを取り締まる側の岡藩のお殿様が二十六聖人のことを思って崖に二十六夜を刻むというのは、正直なところなかなか無理がある話のような気がします(もちろん解説板にも二十六聖人やキリシタンについての記述は一切ありません)。

また、江戸時代には「二十六夜待ち」という二十六夜の月を拝む月待行事もありました。竹田市の三日月岩(実際は二十六夜)も、この二十六夜待ちに関係しているのでは・・・?と思いきや、解説板にははっきりと以下のように記されています。

月を信仰の対象とし、また月の出を待つという月待の民間信仰があるが、まったく関係ありません。

す、すごい言い切ってるね?(動揺)じゃあ「二十六夜待ち」でも「三日月」でもない、「二十六夜」の月が意味するものとは・・・??

わかっていることは、三日月淵と呼ばれる場所の崖になぜか三日月ではなく二十六夜の月が彫られているという事実のみです。

あなたはどう思いますか?

竹田薪能

実はこちらの三日月岩。毎年10月に水上舞台が作られ、一夜限りの薪能が行われているそうなのです!!

www.youtube.com

以下公式サイトより抜粋。

大分県竹田市において、400年前岡藩城主のために行われていた能楽。岡藩藩主の楽しみであった能楽は町人たちにも親しまれ、竹田城下町は元禄の頃より謡の聞こえる文化的な町であり、今も「お謡」として地域に継承される能の文化があります。(中略)岡城藩主中川久通が元禄十五年に彫ったと記録がある三日月岩前に設置された水上能舞台と水面に映る三日月が描き出す幻想的世界。非日常の中で感じる幽玄の美の世界で、全国でも竹田薪能でしか見ることのできない水上能舞台をお楽しみください。

竹田薪能HP

あぁ!なんて風流なのぉぉぉーーーーー!!!(素敵すぎて気絶)

次にここを訪れる時はきっと薪能を見にくる時だろうなぁ・・・。そんな予感をひしひしと感じながら三日月岩を後にするのでした。

河岸に降りるための階段の形も面白かった。お天気のいい日はここに座ってのんびり二十六夜を眺めるのもいいね

自転車を走らせていると、川沿いに恵比寿様のお顔がはめ込まれた瓦と、月と太陽の石灯篭が連なる通りが現れます。

この太陽と月の石灯篭は全国各地のお寺や神社等で見ることができます

美しいツツジと階段が印象的なお寺さんもありました。

光雲寺

この通り沿いにはどうやら岡藩主中川家の墓所があるようです。

おそらくこの扉の向こう側

実はこの石灯籠の通りを自転車でいったりきたりしてるわたくし・・・。最後の最後に訪れたい場所があるのに、そこにたどり着くための道どうにも見つからないんだよーーーーー!!!

ひ、ひめだるま・・・。惑わしているのはお前か・・・?

地図を見ながら途方に暮れていると、帰宅途中の中学生たちの楽しそうな談笑が聞こえてきました。するとその少年たちがぜったいに普通なら曲がろうと思わない細道にするすると吸い込まれていくではありませんか・・・。

遠くに見える三人組の少年たち

山にでも続いていそうな細くてゆるやかな坂道・・・。まさかここじゃないだろうと選択肢から排除していた道でした。でも、確かに残る道はここしかないような・・・?少年たちに追い付かないように自転車を押しながら恐る恐る進むことに(ストーカーおばはん誕生)。こ、心細いよ・・・。そんな気持ちを慰めるかのように、後ろからも女子中学生たちのきゃっきゃする話し声が聞こえてきます。

すると!ついに!!

みみずトンネル

着いたよーーーーー!!!

少年たちがいなかったら辿り着けなかったよ

小さくて細くてまるでみみずのようなトンネル。中に入ると味わい深い手彫りのアーチ。そうそう、わたしはこういう素朴なトンネルが見たかったのよ・・・。

竹田市街地にいくには必ずトンネルを通り抜けなければならず、それゆえ「蓮根町」と呼ばれているそうです。確かに今日だけで何回トンネルを通り抜けたことか。なんだか隠れ里みたいでオラわくわくすっだ!

手彫りにトキメキ

アーチの額縁が雨できらめく新緑を切り取り、まるで極上の絵画のようでした。

美しい

トンネルを抜けると市役所が現れます。

向かいに見えるのが市役所

出入口はだいぶ鬱蒼としていてこわいけど、このトンネルがなければぐるっと遠回りしないといけないものね。だいぶショートカットです。地元の人しか通らないような道だったりするのかな?そんなトンネルを通ることができてとても嬉しい。

市役所側から見たトンネル。落石注意きょわい・・・

もうひとつの二十六夜

みみずトンネルを通り抜け、あとはレンタサイクルを返却しに豊後竹田駅へひとっとび!本降りの雨に降られることなく帰ることができてほっと一安心です。

さて、街中へと戻る前に、昨晩見かけた駅裏の月の謎を解きにゆきましょう・・・。

こちらが昨晩わたしが見た月↓

真ん中に見える月で、右に見えるのが滝。つまり、月がある場所も崖のはず

駅の隙間から崖を覗いてみると・・・。

月ぃぃぃーーーーーー!!!

こちらも先ほど見てきたあの三日月岩と同じく人工的に作られた月。ただし崖には彫られておらず、どうやら照明のようです。昨日はこれを本物の月と間違えて写真撮ってたんだねぇ。あほだなぁーーー。

新旧の月を見比べてみては?

これにてレンタサイクルでの旅は終了。時間はすでに15時過ぎ。つっつけば今にもどしゃっと降り出しそうなどんより雲。本格的に降り出す前に・・・真っ暗くなる前に・・・わしにはゆかねばならぬ場所があるのじゃ!休憩する暇などありません。自分に鞭打ちいざ出発・・・!!

と、再び心を奮い立たせ向かったは良いけれど、まさか最後の最後にあんな試練が待っていようとは思いもよらないのであった・・・・・

【使用カメラ】digital:FUJIFILM X-T3、SIGMA dp3 quattro、iPhone SE2

⑤竹田キリシタンを巡る旅へとつづく▶︎▶︎▶︎