2022年8月7日。いちき串木野市の大里地区で、市来の七夕踊の最後の奉納が行われました。本来なら2020年に行われるはずでしたが、コロナ・パンデミックにより延期を重ね、前回の奉納から3年後の2022年にやっと開催されることに。そのラスト奉納を、しかとこの目に焼き付けてきました。
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8月6日(土)
七夕踊は朝の8時から始まります。つまり当日ちんたら福岡を出発してたら間に合わない・・・。というわけで、七夕踊最後の奉納を見届ける旅は、その前日からスタートしました。博多駅から新幹線に乗り、川内駅で在来線に乗り換え、串木野駅に降り立ちます。いちき串木野市に来たからには必ず行かねばならない場所があるのです・・・。
その場所に向かって歩いていると、鹿児島や宮崎の田園地帯でよく見られるという田の神さぁがお出迎え。
田の神さぁに挨拶をすませ、さらにてくてく歩いていくとついにそれが現れます。
パラゴン(喫茶店)
そう・・・、みんな大好きパラゴンです!!!
知らないよ!という方のために簡単に説明しますと、蒼井優もかき氷を食べに来たことがあるあのパラゴンです・・・!!(雑すぎる説明。かき氷本に載ってるらしい)
地元に人にも愛されていて、夏はかき氷で大繁盛・・・!いつも多くの人で賑わっています。
わたしも何度も何度も訪れたことがある大好きな喫茶店。2019年の七夕踊の際にも、もちろんここでお昼ご飯のピザを食べました。
以前は車移動だったので、七夕踊当日にそんなこともできたのですが、今回は公共交通機関&徒歩移動。少し離れたところにあるので明日行くのはちょっと厳しい・・・。というわけで、今日訪問することにあいなりました。いちき串木野に来てパラゴンに行かないなんてそんな無礼は許されないのだ・・・!!
かき氷と迷いつつ、今回はパフェを注文。上に乗っている昔ながらの緑色のアンゼリカ(フキの砂糖漬け)にもなんだかホッとします。
自宅を出たのが遅い時間だったため、すでに時間は夕方。束の間のパラゴンを満喫した後は、徒歩で1時間ほどのお宿にのんびり散策しながら向かうことにします。
真夏の強い日差しが濃い影を作り出します。
民宿パレス
ふらふらと写真を撮りながら到着した本日のお宿。
眉毛のキリリッとしたなんだか愉快なおじさまが出迎えてくれました。話が面白くてとっても印象に残っています。
80歳近くだけどすごい元気!外国の船長?してて、少し前までイタリアかスペインに行ってたとか、4ヶ国語くらいペラペラとか(ほ、ほんとに???)、ちょいちょい自慢挟んできて面白かったです(好き)。
寝泊まりするだけならじゅーぶんなお宿。素泊まりだったのでご飯を調達。すぐ近くの肉々しい炭火焼き工房半バーク・ステーキ黒平さんでテイクアウトします。
う、うううううまーーーい!!!
いやぁー、やっぱりThe 肉!!というような美味しいお肉を食べるとテンションあがりますね。明日のために体力もつけねばなりません。胃袋を幸せで満たし、今日は早々に就寝です。
8月7日(日)
市来駅
翌朝、電車に乗って一駅の市来駅へ。七夕踊最後の奉納にふさわしいスッキリとした青空が広がっています。
七夕踊のモチーフがあちこに。電車で訪れるのは初めてだったから知らなかったよー!
駅舎前には立派な虎と虎捕りのモニュメントもありました。黒っぽい金属で出来ててめちゃくちゃかっこいい!!調べてみたらその筋で有名な会社が製作していて納得・・・。
虎も髪を逆立ててなんだかとてもパンキッシュ!!!
こんな最高にイケてるモニュメントもあるのに、今日その長い歴史に終止符が打たれるのかと思うと悲しくなってきます・・・。
七夕踊が最初に奉納される堀内之庭までは駅から歩いて約20分ほどの距離。もうあまり時間がないので急いで向かうことにします。
余談ですが、今回のブログで突然現れるモノクロ写真は生まれて初めて自家現像したフィルム写真です。そんな意味でも特別な最後の七夕踊になりました。
堀之内庭
堀之内庭が見えてきました。すでにたくさんの人が集まっているようです。
まずは保存会の方から、七夕踊休止について話がありました。今回は感染症対策として、規模を縮小しての開催。虎や牛等の張り子のツクイモンは展示のみで、一部の行列も今回は出さないとのことでした。残念・・・。
前回はなかった集合写真の撮影も行われます。最後の奉納の思い出のための写真。悲しい・・・悲しすぎるよ・・・・・。
そして花笠を頭に乗せ、太鼓踊りの準備が始まります。
いよいよ最後の七夕踊奉納がスタートです!!!
七夕踊についての由来や流れ等については、前回のブログに書いているのでここでは省略。知りたい方は前編を読んでね。
最初の太鼓踊りが奉納されると、お酒が振る舞われました。一番ドンが先に飲み、次にヤッサ(役者)、庭割(にわわい)・・・と、どうやら飲む順番があるらしい。昔は「到住免」という田んぼからとれた米で白酒を造っていたけれど、昭和15年酒税法に触れるとのことで、それ以後酒造りは禁止になったそうです。
ちなみに庭割というのは、踊に詳しい人が選ばれて七夕踊の全てを取り仕切る役目。踊りが行われている最中も、踊り手たちに色々と指示をしていました。頭に陣笠を被って、腰に毛皮を巻いているのも印象的!
七夕踊大移動
掘之内庭での奉納が終わり、各々は次の踊り場へと大移動。
おそらく堀之内庭の端っこに置かれていたツクイモンたちは、トラックに乗せられ三番目の踊り場である門前河原へと向かうのでしょう。
あれ?今年の牛、なんだかいつもよりお顔が可愛い気がする・・・!!!(超好み)
ちなみに子のが2019年の時の牛。
ツクイモン以外の人たちは、みんなてくてく歩いて近くの神社へと向かいます。
一日中強い陽射しの中で踊り続ける人たちのために、とある民家の前には自由に飲めるように水とグラスが用意されていました。
鶴ヶ岡八幡宮(金鐘寺)
2番目の踊り場へと到着。
境内をうろうろしてたら、なぜか地元のおっちゃんに呼ばれて、好きな飲み物とっていいといわれます。え?他の人たちはもらってなさそうなんだけど・・・いいの???
トラックの上のバケツでキンキンに冷やされているペットボトルたちの中から麦茶をチョイス。たま〜に旅先でおっちゃんに可愛がられる才能があるわたくし・・・。実はまた後で再びその才能が爆裂するのである。
そして、奉納が始まります。
花笠や行列の飾りの影と木漏れ日が地面でゆれる姿がとても美しい。わたしはここでの奉納が本当に大好きです。
奉納を終え、再び次の踊り場へと大移動!休む暇もりません。
わたしを残してみんな車でひとっとび???あっという間にいなくなってしまいます。
ま、待ってよぉーーーーー!!!
門前河原
次の踊り場の門前河原ってどこだっけ!?
2度来たことあるのにちっとも場所を覚えられません。こっちかな?ちょっと焦りながら歩いていると、関係者っぽいおっちゃんを発見!早速捕まえて場所を聞くと、自分も行くところだからと案内してくれることになりました。ありがたや〜。
門前河原ではいつもなら今頃暴れまくっているツクイモン(作り物)たちが、大人しく横一列に並んでじっとしていました。そう、今回は残念ながら展示だけなのだ・・・。
ここでもしっかり集合写真。
展示だけって思ってたら・・・
え!!虎の寸劇始まったよ・・・!!!!?
まさか見れるとは思ってなかったのでめちゃくちゃ嬉しかったーーー!!!!!!
午前中の奉納はここで終わり。ツクイモンが次々と運ばれていきます。
束の間の休憩
次の奉納まで4時間ほど。なかなかの空き時間です。ちょうどお昼ご飯の時間。きっとみんなも束の間の休息をとっていることでしょう。
近くのラーメン屋さんに向かって歩いていると、さっきまで門前河原にいたと思われる鹿ちゃんを発見〜。うれしい!
「ラーメン 潮騒」で腹ごしらえ。歩いて行けるお店がここくらいしかなかったのだー。でも美味しかった!はず(一年前だから覚えてないんだ・・・ごめんよ)
その後はもちろんコンビニでクエン酸!
実はこの日は殺人的な日差しで、先ほどの門前河原では人が倒れて救急車で運ばれるほどの猛暑でした・・・。わたしもぶっ倒れないために、クエン酸で体力回復を狙います。
奉納まであと3時間ほど。まだまだたっぷり時間があります。近くの田の神さぁ巡りもしたいけど歩き回るには暑すぎる。さぁて今から何をしよう・・・?
ひとまず先ほど奉納が行われた神社で涼むことにします。
蝉の鳴き声を全身に浴びながら、境内へと続く階段を登っていきます。
さっきまで多くの人でひしめき合っていた境内にはポツンと提灯だけが残っています。
提灯下の水の入った桶には、大きな葉っぱが被さっていました。
なんの葉っぱ?なんで葉っぱを乗せてるんだろう???そんな疑問が次々に浮かびます。すると片づけにきたと思われる地元の人が現れました。聞いてみると、里芋の葉とのこと。そういえば昨日同じ形をした葉っぱを見たことを思い出します。そうか、あれは里芋の葉っぱだったのか。
汚れが入らないように乗せていると言っていたと思うんだけど・・・一年前のことで自信がない。というか会話した気がするだけかも・・・もしかしたら人が来たこと自体暑さが見せた幻だったかもしれない・・・・・。
金鐘寺
地図や幟旗には「鶴岡八幡宮」と書いているのに、七夕踊の日程表には「金鐘寺」と書かれているのは一体なんでだろう?と疑問に思っていたら、神社の拝殿横に仏像が安置された小さな祠がありました。
金鐘寺自体は、明治2年の廃仏棄釈によって廃寺になったそうです(寺跡が近くにあるらしい)。鹿児島は廃仏毀釈が激しかったと聞くもんね・・・。つまり、太鼓踊はこの金鐘寺の和尚に向かって奉納されるもののようでした。なるほど〜。
一通り境内をぐるりと見たあとは椅子に座ってのんびり。時間はたっぷりあるのです。
嗚呼、なんてここは居心地がいいんだろう・・・。ここで奉納される七夕踊だけでなく、この神社自体がどうやら自分に合っていたようです。気付けばあっ・・・・という間に数時間が過ぎていました。何してたのかまったく覚えてないけれど、とても気持ちよかったことだけは覚えています。
少し早めに4番目の踊り場である「払い山」へと向かうことにします。すると今度はとある店先で可愛いミニ虎を発見!
七夕から1週間後のお盆に、かつて大里一帯から周辺部落では、子どもたちが小さな牛や虎の張り子を作って引き回す習俗があったそうです。それを「盆トラ」や「盆のウシ」と呼んでいたとか。(昭和54年9月14日の新聞記事より)昭和54年の記事の時点で、「今では数部落でしか行われていない」と書かれていたので、果たして今も行われているのかどうか・・・。気になります(盆トラほしい。むしろ作ってみたい。盆トラ作りワークショップやりませんか??)。
払い山
払い山に到着。
払い山へと続く美しい田園に囲まれたここから再び行列が始まります。
この道から一番最初に現れるのは、本来なら鹿から始まるツクイモンたちなのですが、今回はひと足先に踊り場の払い山でくつろいでいました。
鶴の餌撒きも見れました。
不思議な格好の琉球王行列も好きだったなぁ。
薙刀行列が太鼓踊りを先導します。
女性ものの浴衣を着て、「粟踏み」と言ってトコトコ小刻みに進むのがとても印象的。太鼓踊りの前だけでなく後にもついて、後払いの役をします。
住吉社中
写真で薙刀を振っているのは、いちき串木野市を中心に活躍する町芸者「住吉社中」の小糸さん。わたしは数年前にたまたま鹿児島市の天文館でその芸を見る機会があったのですが、それがとっても可笑しくて楽しすぎて・・・!!!
2019年の9月に天文館で初めて住吉社中さんを知った時には、まさか七夕踊に出ている方とはまったく知りませんでした。でも、見返してみるとなんと約1ヶ月前に訪れた七夕踊の写真にしっかりと写っていたという・・・笑。そんな偶然もあるんだねぇ・・・。
小糸さんのインスタでは、その愉快なお人柄と共に、住吉社中の活動や、知らなかった日本文化や習俗などを垣間見ることができてとても興味深いです。
https://www.instagram.com/koito_sumiyoshi/
さて、話は薙刀行列に戻ります。
七夕の日には、薙刀行列が神社の前で薙刀のさやを払うと、必ず雨が降ったという伝えがあるそうです。戦後は薙刀を没収されて偽物を使っているので、いくらさやを払って天をにらんでも雨は降らないとか・・・。(「かごしま探検」昭和54年9月26日の新聞記事より)今年も降ることはありませんでした。
薙刀行列の後には、太鼓踊りが鮮やかな花笠を揺らしながら続きます。
ここで写真をパシャパシャ撮っていると、門前河原に案内してくれたおっちゃんが再び現れました。なんと!七夕踊に関する資料をたんまり印刷して持ってきてくれたのです・・・!!(おっちゃんになぜかよくしてもらえる才能を発揮)
特に昔の新聞記事の切り抜きの内容が面白くて(歴史を感じて泣けてきた…)、それらの資料に助けられながら今回のブログをしたためております。ありがとうおっちゃん!!!!!
夜の堀内之庭での最後の奉納まで見届けたかったけれど、残念ながら翌日は仕事。帰りの電車の時間が迫っています。払い山で太鼓踊りが奉納されている途中で、泣く泣くこの場を去ることに・・・。
こうしてわたしの最後の七夕踊を見届ける旅は終わりを迎えたのでした。
映像で生き続ける七夕踊
なんと!わたしが払い山を去った後に、予定のなかった虎の寸劇が行われたそうです!!みたかったよーーー!!!
ありがたいことに、MBC鹿児島放送で特集された映像がアップされていました。18歳からずっと虎捕りをやり続けてきたおっちゃんのインタビューまで!ほんと泣いちゃうよ・・・!!!もうわたしの中で永久保存版の映像です。
奉納当日の映像だけでなく、準備映像の特集もありました。実際に見てみたかったツクイモンの作り方も・・・!!!なんとミニチュアの虎も出てました。「盆トラ」はこのくらいの大きさだったのかなぁ・・・。1960年の白黒の七夕踊の映像も流れてめちゃくちゃ貴重。昔は橋も河原も観客でびっしり!!こんな時代があったんだね・・・。
動画作っちゃいました!
プロが編集した映像の後になんですが・・・愛が溢れすぎて気付いたら動画作ってました!!(処女作にして最後の作品!??)
ほぼ初めての動画編集。ピンはあってないし手ブレも酷いのですが、3年間撮りためた映像や写真を元に、七夕踊の由来や流れについて簡単に紹介しています(約6分)。めちゃくちゃ頑張って作ったので!(アピール)よかったら優しい眼差しで見てもらえると嬉しいです。
※映像内に誤字あり(×堀内之庭→◯堀之内庭)
これからも受け継がれていく太鼓踊り
2022年で一旦休止となった七夕踊。なんと、一番の要である太鼓踊りは、今年も引き続き奉納されます!七夕踊保存会にかわり、新たに七夕踊伝承会が発足。2023年8月6日(日)10:00〜11:00に堀内之庭で奉納が予定されているようです。
太鼓踊りもほんと素晴らしいんだよー!!!
わたしもまた必ず見に行きたいと思っています。みなさまも是非。
まずは七夕踊休止後の一発目が無事奉納できるよう願っております。今世間を翻弄しているのろのろ台風よ、邪魔するんじゃないよ・・・??? 七夕踊休止後初めての太鼓踊りは無事奉納されたようです!よかったーーー!!!(2023年8月7日追記)
最後に
七夕踊に出会えていなかったら、今のような旅する人生を送っていなかったかもしれません。本当に楽しくて大好きなお祭りでした。これまで400年以上守り続けてくれたことに感謝します。ありがとう&お疲れ様でした!!!
そしてまたいつか、完全な七夕踊が復活することを願っています(4年に1度とかでもいいから・・・ずっと待つから・・・・・)。
終。
■参考文献・サイト
・『市来町郷土史』(市来町郷土史編集委員会 編)
・『速報七夕踊』(七夕踊保存会 発行)
・七夕踊で偶然出会ったおじさまにもらった資料(新聞記事の切り抜き等)
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