盛岡駅から電車で50分ほどの北上駅へ。珍しくここからはひとりではありません。旅の前に某SNSで東北マスターY氏に鹿踊情報をお尋ねしたところ、なんとアテンドしてくれることに・・・!!世の中には仏のような方がいるものですね。ありがたや・・・。
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鹿踊(シシオドリ)とは
鹿さまに会いにいく前に、まずは鹿踊についてちょっとお勉強。
*間違ってる部分があったらごめんなさい〜。参考にしたサイトは一番最後にまとめています。
日本の郷土芸能で「シシ」と聞くと、みなさまパッと思いつくのは獅子舞ではないでしょうか?文字通り獅子(ライオン)のことで、こちらは大陸から都(京都や奈良)に伝わってきたものだそうです。
一方、東北のシシオドリの「シシ」は獅子と発音は同じでもまったく別のもの。狩猟や食糧の対象となる山の獣の肉のことを日本の古語で「シシ」と言い、猪や鹿などの山に住む獣を踊りにしたのが日本発祥の「シシオドリ」とされています。
鹿をモチーフにした鹿踊(シシオドリ)は、岩手県や宮城県で多く踊られていて、岩手だけでもおよそ150もの団体があるといわれています。旧南部領では幕を持って踊る「幕踊系」(今回の旅でも遠野で鹿頭を見せてもらったね!)、旧伊達領では腰に太鼓をつけて歌い踊る「太鼓踊系」が多いそうです。「太鼓踊系」にも春日流・金津流・流行山と3つの流派があるらしい。なんてバリエーション豊かなのでしょう!
そして東北から遠く離れた四国の地にも鹿踊り(しかおどり)が存在しており、1600年代前半に仙台の伊達政宗の長男、秀宗が宇和島藩に移った際に鹿踊が伝わったとされています。伊達領から輸入されたから四国の鹿踊りは「太鼓踊系」なんだね。
2019年に宇和島で初めて見た鹿踊りがきっかけで、そのルーツである東北の鹿踊を求めてついにここまでやってきました。北上駅でYさまと合流して車で出発!これから見学しに行くのは「太鼓踊系」の鹿踊。いよいよ東北の鹿さまと初対面いたします・・・!!(ドキドキドキ)
宝寿寺
青々とした美しい田園が広がる道路を走り抜け、たどり着いたのは岩手県奥州市胆沢南都田地区にある宝寿寺。
東北の鹿踊はもともとは鎮魂・供養としての意味合いが強く、それに豊作祈念や感謝の意味が加わり、お盆の頃から始まって9月くらいまで神社の秋祭りなどでも踊られているそうです。
今日は8月13日。鹿踊の本質ともいえる盆供養踊りを見学させてもらいます。部外者がうろちょろして写真を撮っても大丈夫なのかしら・・・。と、ちょっと心配だったのですが、確認したらOKとのことでホッ。個人のお墓がガッツリ写ったりしないようにもちろん気をつけます!
行山流 都鳥鹿踊(ぎょうざんりゅう とどりししおどり)
お寺さんに到着するとすでに変身前の都鳥鹿踊さんたちがすでにスタンばっておりました。寛政5(1793)年に鹿踊が伝わったとされ、現在まで一度も途切れることなく踊られているそうです。
つい開口一番に
「たのしみにしてます!!!」
と、場違いな一言を発してしまい(盆供養なんだから・・・楽しみってあなた)、しょっぱなからやらかしてしまうわたくし・・・反省。
3つの宗教が交わるお寺
踊りが始まるのを待っていると、鹿踊メンバーのお一人が話しかけてくれました。ここは曹洞宗のお寺だけど「キリシタン」や「隠れ念仏」にも縁があるお寺であることを教えてくれます。
き、キリシタンーーーーーー!!!?
はい、わたしは3度の飯よりキリシタンが大好物。今年の初めに長崎に行ったことをきっかけに上半期はキリシタンにどっぷり浸かり、弾圧された江戸時代の潜伏キリシタンたちに思いを馳せ、涙する日々を送っておりました・・・(安心してください、今は落ち着きました)。
竹田キリシタンを巡る旅に出たことも記憶に新しいですね・・・。
わたしからは何も聞いていないのに、突然そのような話が飛び出したので吃驚&興奮・・・!!福岡から来たということを知り、九州は長崎や熊本など潜伏キリシタンゆかりの地が世界遺産にもなってて有名だからそういう話に繋がったのかな?
隣町がキリシタンの街だったそうです(水沢のことかしら?旅の前に調べたらキリシタン関係の場所や、他にも色々気になる場所があってちょっと観光したかったのだ)。お寺さんから見える山の上を指差して、キリシタンが儀式をしていたという場所を教えてくれました。
墓石?か、何かに逆卍が刻まれていたりもするらしい(相変わらずいい加減な記憶力)。鹿踊が始まるまでまだ時間があるみたいなので、いてもたってもおられずお盆のお客さんたちの邪魔にならないようにちょっとだけ墓地をぐるっと周ってみることにします。しかし残念ながら自力でキリシタンの痕跡のようなものを見つけることはできず・・・。
は!わたしの今回の目的は鹿踊だよ・・・!!
我にかえってお墓から戻ってみると、ちょうどお着替えタイムが始まろうとしていました。雨が降ったら中止になると聞いていて、ちょっと怪しい雲行きにヒヤヒヤしていたのですがなんとか大丈夫そう!?
準備風景
着替えているところを見学させてもらっていると、その装束についても色々と気になってきます。
ササラ
背中から空高くそびえ立っている白い紙が巻かれた竹製の棒は「ササラ」と言って、神様を下ろす役割があるそうです。一人で「よいしょー!」っと背負えるようになっててすごーい!!都鳥鹿踊さんのように、垂直ではなく斜め(V字型)になっているのは珍しいそうです。
鹿角
鹿踊の衣装の中で、一番最初に目についたのが鹿の角でした。
鹿頭の角の断面が真っ赤に塗られていて、それをみた瞬間・・・
「赤!血液!!生命!!!」
と、胸がきゅきゅきゅーーーんと高鳴ってしまいました。
なんで赤く塗られてるのか尋ねてみると、言われて初めて気付いた(意識した)とのこと(つまり特に意味はないらしい)。単なる装飾的なものっぽいけど、わたしにとっては最高の萌ポイントだよ・・・!!ちなみに本物の鹿の角を使用する団体もあるのですが、鹿踊が盛んな奥州市の江刺や胆沢地方などでは、鋳物で作られることが多いそうです。
そしてこの鹿頭をひっくり返すと現れたのはヘルメット・・・!!!どうなって固定してるんだろうと思ってたので、あまりにも現代的でビックリしてしまいました。通常、「エンツコ」(全然馴染みのない言葉の響きだ)という藁等で編んだものでシシ頭を固定するらしい。都鳥鹿踊さんではエンツコが重すぎるのでヘルメットを使ってるのだとか。エンツコも生で見てみたいな〜。
現在の鹿頭は昭和50年くらいに作られた2代目の鹿頭で、修理しながら使っているそうです。お顔を隠してしまうほどの長い髪の毛は馬の毛。鹿なのにお顔が真っ黒なのは、山伏が伝えた神楽の最高神「権現様(ごんげんさま)」(獅子舞)の影響があるからだとか。頭に載せる前に、手を合わせて拝んでいるのがとても印象的でした。
どんどん準備が進んでいきます。
流し
背中には「流し」といわれる布が垂れ下がっていて、各団体によって絵であったり文字であったりと描かれるものは様々。
雌鹿のものはエロい絵柄と言われて(今回の盆供養踊りではなかった)テンション上がったのですが、もしかしてこれ?これのこと??
だからぁ、左下は🐻だってばぁ‼️ pic.twitter.com/bf07FIluUo
— すたさん@行山流都鳥鹿踊 (@gyozan_todori) 2023年9月9日
めちゃくちゃイイ・・・!!!しかも左下の黒いものは熊だそうです笑。このゆるゆるな感じたまりません・・・。雌鹿の登場する演目は余興的なものになるらしく、どうやら秋祭り等で踊られるようです。いつか見てみたいなー。
ついに変身完了!!!
着替えが終わると、駐車場の隅に集まって太鼓を叩き始めました。
男性だけではなく、小柄な女性の踊り手さんもいます。昔は女人禁制の時代もあったようですが、現在では女性の踊り手も多いようです。なんと装束は全部で約15kgほどもあるとのこと。男性でも女性でもその重さは変わらないというから大変!
駐車場での太鼓が終わると、ついに盆供養踊りのはじまりです・・・!!!
盆供養踊り
旗を持ち先導する方に続き、黒装束の鹿さまたちが一列になって行進する姿からしてとてつもなくカッコいい!!!
実際に見るまでは、東北の鹿踊は黒の印象が強かったけど、麻布に大きく染め抜かれた九曜紋と呼ばれる伊達藩の家紋や、袴の裾の鮮やかな朱が際立っていてとっても華やか!!赤、緑、黄、青、紫に染められた小さな家紋も可愛らしくて特にお気に入りでした。コテの刺繍も好き。
山門をくぐって中へと入っていきます。
今回は盆供養踊りということで、どちらかというとしめやかで大人しい踊りだったようなのですが、ところどころ激しく踊る場面もあって興奮!(四国の穏やかな鹿踊りを先に見ている自分にとっては十分激しく見えたのだ)。歌も腹の底から出すような節回しのある力強いものでした。
たまに激しく動いて、背中のささらが勢いよくしなります。
お墓と田園を背景に黒装束の鹿さまたちが踊り狂う姿はとても不思議な感じがしました。
歌や踊りが違うので、いくつかの演目が組み合わさっていることはなんとなくわかるのですが、もちろんわたしにはその中身まではわからず・・・。ひとつひとつ理解できたらより楽しいんだろうなぁ。
お祝い
そうそう、今回「お花(ご祝議)」というものを初めて渡しましたよ・・・!舞台とかで投げ銭みたいのがあるのはうっすら知ってたけれど、郷土芸能の世界でも行われているとは知らなかったのです。
じぶんち 第13号「特集 お祝い」:こちらで勉強させていいただきました。
拝見させてもらってる以上なにかしらお礼したいし、ずっと続けていってほしい。ドキドキしちゃうけど、渡せる機会があれば勇気を出して渡していきたいと思います。
ところで後日、撮った写真を見返してて初めて気づいたんだけど・・・
わたしがお花を包んだとっておきのポチ袋が写ってるよー!!!
つまりこの時「お花ありがとう〜!!!」ってしてくれてたんだね・・・!??まったく気付いてなかったよーーーーー涙涙涙
同時にひとつのことしかできない人間なので、写真撮ってたらなんも入ってこないんだ。やはり自分の分身が3人くらいほしい・・・。
墓前にて
本堂前での踊りが終わったかと思うと、太鼓を打ち鳴らしながらお墓の方へと向かっていきます。
優しい飴色の夕陽が辺りを照らし、なんだか懐かしいような切ないような・・・。
踊り終えて再びお寺へと戻っていく鹿さまたちのうしろに、ピッタリとくっついて歩く一人の少年の姿が・・・。
これにて本日の盆供養踊りは終了!
最後の記念撮影にもちゃっかり便乗させていただきました。決めポーズめちゃかっこいい!!!
都鳥鹿踊のみなさんほんとにいい人たちで、質問にも色々答えてくれるし感激してしまいました。とっても居心地がよかったー!初めての鹿踊体験が都鳥鹿踊さんでよかったです。見学させていただきありがとうございました!!
ちなみに都鳥鹿踊さん、人手不足で地区内外問わず会員を募集しているようです。興味のある方は是非!鹿踊してるって言ったらきっとめっちゃモテるよ〜!!(わたしにな)
▼都鳥鹿踊さんのX(旧Twitter)とブログ
すたさん@行山流都鳥鹿踊 (@gyozan_todori) / X
昭和の残照〜水沢駅周辺を散策
はじめての鹿踊をしっかりタンノーしたあとは、再び盛岡へと戻りましょう。一番近い水沢駅で降ろしてもらいます。すると!なんと!次の電車が来るのが1時間後というではありませんか・・・!!
それなら駅周辺を散策するまでさ・・・!!!
めっっっっっっっちゃ素敵じゃん・・・!!!!!
そしてとんでもなく大大大好物の建物を見つけてしまう・・・!!!
他にもこんなのや・・・
こんなのまで・・・・・
えぇ、水沢駅周辺。猥雑でどこか寂しくて・・・とてもわたし好みでした・・・・・。少し歩いただけでこんなに素敵な風景に出会ってしまうのだから、まだまだ素敵な建物が眠っていると思われます(現に車で通り過ぎる時に素敵な建物を見たんだー!でも道がわからなくて駅から近いのに辿り着けなかった・・・)。
これは再訪しなければなりませぬ。水沢はキリシタン縁の街だし、水沢競馬場にはホルモンが美味しいお店もあって桜並木も綺麗らしい(実はここで初の競馬体験したかったのだけど、滞在中にレースしてなかったので水沢観光を旅の候補から外したのでした)。再訪する時は桜の時期かな?その時を楽しみにしたいと思います!
盛岡ふたたび
盛岡駅に到着したのは20時頃。外に出ると地面が濡れていました。どうやらまた雨が降ってたらしい。もしかしてわたしが着くと同時に止んだっぽい?都鳥鹿踊さんの時も降りそうで降らなかったし、もしかしてわたし晴れ女・・・??なーんて昨日ドシャドシャドシャ降りの遠野&盛岡だったことをすっかり忘れてそんな風に思ったり。
盛岡冷麺
今回の旅では遠野で食べたジンギスカン以来、ほとんどご当地グルメを食べれていません。せっかく盛岡にいるんだから「盛岡冷麺」食べたい!と思って駅近くのお店に向かってみるも・・・。
すぐに心折れて、コンビニで盛岡冷麺買ってホテルで食べるという。明日こそは岩手らしいごはん食べたいなぁ・・・。
さぁて、明日は5時起きだよ(白目)。本日に引き続きY氏の案内で、盛岡から車で約2時間ほど(遠い!)の場所で行われる幕踊系の菅窪鹿踊を見に行きます。東北のデフォルメされた鹿頭ではなく、どちらかというと四国の鹿頭と同じくリアル鹿に近いとのことだったので、気になって訪問をリクエストしていたのでした。
明日も早いしそろそろ眠ろうとしていたところにY氏より連絡が・・・(嫌な予感)。ななななんと!明日の早朝行われる予定だった菅窪鹿踊が雨で中止に・・・!!!さっきまで晴れ女と確信したばかりだったのに・・・やはりわたしは雨女なのか。
悲しみに暮れていると別の鹿踊を案内してくださるとのこと。さすが東北マスター!ありがたい・・・。中止は残念だけど、行き先が変更になったことで1時間多く眠れることになったのでよかったことにす・・・る・・・・・(ぱたり)。
■参考にしたサイト
「鹿踊のある風景から」(第4回「先覚に聴く」レポート) | 伝統芸能アーカイブ&リサーチオフィス - TARO…東日本大震災時の様子がとても印象に残りました。死者供養としての鹿踊についてリアルに知ることができます。とてもよい記事だったから読んでほしい。
東北STANDARD | 鹿踊 - 02.鹿踊の意味と発祥 -
東京鹿踊/ TOKYO SHISHI-ODORI — シカノツノ力
郷土芸能じぶんち …東北の郷土芸能を紹介する情報誌。第9号と第10号で、鹿踊についてわかりやすく特集されています(都鳥鹿踊さんも対談で登場)。第13号は「お花(ご祝儀)」について。他にもいろんな特集が組まれているので、東北の芸能について楽しく分かりやすく知りたい方にオススメです。
【使用カメラ】digital:FUJIFILM X-T3、SIGMA dp3 quattro、iPhone SE2、film:CONTAX Aria
⑨台風危機一髪!岩手お盆ひとり旅2023 へとつづく▼▼▼