彷徨する旅のアーカイブ

旅先や日常で出会った「非日常」の記録

01.南九州・十五夜ひとり旅2023【隠れ念仏と田の神さぁ編】

旧暦8月15日は中秋の名月。わたしは十五夜という呼び方の方がしっくりくるかなぁ。子供の頃、実家では縁側に母親が作ったぼた餅や、焼酎瓶にススキが飾られていたことを覚えています(小豆ぎらいだから食べれないけど・・・)。

なぜ急にそんな話をしたのかって?それは今回の旅の目的が十五夜行事を見るためだったから。今年、2023年の十五夜は9月29日でした。「旅」と呼ぶには短すぎる、ちょっとそこまで・・・な、十五夜ひとり旅。どうぞ最後までご覧くださいませ。

CONTENTS

博多から鹿児島へ

新幹線で博多駅から鹿児島中央駅へ。車があればそこからひとっ飛びではありますが、毎度のことながら公共交通機関と己を足を酷使する旅でございます。

鹿児島中央駅にぷかぷかくらげが浮かんでいたよ

指宿枕崎線に乗り換え、海と薩摩富士を眺めながら鈍行でのんびりと向かいます。

着いた!

大ピンチ!油油油まつり

到着したのは南九州市の頴娃(えい)町にある西頴娃駅。

鹿児島人以外で頴娃を「えい」と読める人はどれだけいるだろうか?

しかしまだまだ目的地には着きません。乗り換えのバスの時間まで1時間ほど。ちょうどお昼時だったので、近くのからあげ屋さんでお弁当を仕入れることにします。

唐揚げ屋さん前の駐車場には麗しい美猫さまが

からあげ村長。嫌いじゃないぜ、そのセンス

揚げたてのお弁当を受け取り、本日の昼食会場へ・・・(バス停です)。

最高のランチタイムの始まりだぜ・・・!!!

(目の前が学校だったので、不審者に思われやしないかドキドキ)

揚げたての唐揚げは美味いに決まってるだろ?特に塩が!美味すぎた!!(塩と醤油味の2種類から選べました)なかなかボリューミーで食べてる途中でもうお腹いっぱい・・・。欲望のままについ砂ずりの唐揚げまで頼んでしまったのがあかんかった。油油油まつり!これでもかってくらい油が胃に重くのしかかってきます(大量の油が受け付けない年頃なのじゃよ・・・)

やばい・・・バスがもう来てしまう・・・!急いでかっこむ・・・けど無理!!

もうバスきちゃった!!!

ぶつかってきそうなくらいスレスレで止まって死ぬかと思った

砂ずりの唐揚げを半分だけ残し、とりあえずバスの中へ・・・。なんでいつもこんなバタバタ・・・優雅に旅できないものかね・・・。

これから向かうのは知覧特攻平和会館やお茶の名産地としても有名な知覧町。車窓からは不思議な形の山や、茶畑が延々と広がっていました。地元が近いわたしにとっては、茶畑はどこか懐かしさを感じる風景です。

茶畑には大きな扇風機がワンセットだよね(霜を防ぐためにあるんだって)

ところで今回乗ったバスが曲者でした。見た目はちゃんとしたバスなのに、停車するバス停のアナウンスが小さい・・・。それだけならまだしも放送されない時すらあって「え?え?」ってなりながら突き進んでいくのです・・・!!これはうっかりしてたら降りたいとこで降りれないや!つ!!慌てて地図アプリを片手に通り過ぎていくバス停をチェックしながら渾身の「ピンポーーーーーン!!!」。なんとか無事下車することができました・・・(めちゃ焦ったわ)。

「東門」で下車。運転の荒いおじいちゃん、さよならだよ(安全運転してね)

数日前に秋分の日を迎え、暦の上ではすでに秋。バス停の周囲には彼岸花が咲き、秋の気配を感じるものの、まだまだ昼間は厳しい残暑が続いていました。

黄色の彼岸花に蝶が戯れていた

つまり、このままでは先ほど食べきれなかった砂ずりが腐ってしまう・・・!そう、わたしが今真っ先にしなければならないのは、この砂ずりを一気することなのだ・・・!!!!!(美しい彼岸花を前になんて情緒のない・・・)

腹10分を超えた胃袋に無理やり押し込み(味は美味しいんだよ・・・食べきれないのに欲張ったわたしがいけないんだよ・・・)何度も気持ち悪くなりながらなんとかフィニッシュ!!!最後まで美味しくいただけなくて、揚げたての唐揚げに申し訳ないことをしてしまったな・・・。

知覧町をぶらぶら散策

さて、夜から始まる十五夜行事まではまだ時間があります。知覧観光するために少し早めにやってきたのでした。知覧といえば知覧特攻平和会館や武家屋敷が有名ですが、今回十五夜行事が行われる地区からは微妙に遠い・・・。どうにか歩いて周れる範囲で観光することにします。

まだまだ厳しい残暑の中、汗をだらだら流しながら歩いていると、秋の訪れを感じる様々な色の彼岸花があちこちで出迎えてくれました。

昔は赤しかなかったよね?いつからこんなにたくさんの種類が彼岸花を見られるようになったのだろう

田の神さぁ巡り

歩いて周れる場所といっても、周りにあるのは田んぼや田んぼや田んぼくらいしかないので、観光できるところは実はあんまりなかったり。でも、田んぼがあるなら田の神さぁがいらっしゃる!!!(「たのかんさぁ」と読みます。かわいいでしょ?)というわけで、田の神さぁ巡りをすることにいたしましょう。

田の神さぁってなぁに?

これまでのブログの中でもたまぁーに出没していると思われる田の神さぁ。ちゃんと詳しく書いたことはなかったかもしれません。

田の神は、冬は山の神となり、春は里におりて田の神となって田を守り、豊作をもたらすと信じられています。「田の神」信仰は、全国的な民俗行事として古来から農村に浸透していますが、「田の神」を石に刻み(田の神石像)豊作を祈願する風習は、18世紀初めに始まる薩摩藩独特の文化です。「田の神石像」ができたころは、霧島の噴火・天災などが原因で、農家にとって大変きびしい時代でした。(中略)農家は霧島の噴火をやめさせ、稲作の豊作を願うために「よりどころの像」を作るようになったといわれています。

田の神さぁってなぁに? – 宮崎県 えびの市観光協会 より抜粋

今年のGWに訪れてた鹿児島市の黎明館の民俗コーナーにも、さまざまな形をした田の神さぁが展示されていました。

田の神の分布と類型の図

田の神は、稲を育てる水田を守り豊作をもたらす神として、水田の畔や水田を見渡せる小高い場所、あるいは井堰や溜池などの水の取り入れ口、家の床の間などに祀られている。石像だけでなく、自然石や木像、陶器の像も存在する。その形は頭にはシキを被り、手にはメシグとスリコギを持っているのが、最も代表的な形である。また、後ろ側から見ると全体が陽根の形をしているというのも一般的である。(後略)

出典 小野重朗『田の神サア百体』(黎明館の展示より)

えーっと、上記のマゼンダ色に注目ですよ。後ろ姿が「陽根(つまりは男根)」の形をしている・・・!?え、今の今まで知らなかったよぉーーーーー!!!でも、前に撮った写真を見返してみると、ちゃんと後ろ姿も撮っておりましたね。えらい、わたし。

言われてみれば、確かにそう見えなくもない・・・
【後編】真夏の田園ラプソディ!市来の七夕踊に掲載の田の神さぁ(いちき串木野市)

瀬世の田の神

そして、今回バス停から歩いてすぐに出会った知覧の第一田の神さぁ!周囲は鮮やかな稲穂の海。とても美しかったです。

やっぱりちゃんと後ろ姿撮ってた。えらい。

周囲の田んぼではお爺ちゃんとまだ若いお孫さんが一緒に稲刈りをしていて、なんとも微笑ましかった。

パラソルおじいちゃん

その様子を見守る田の神さぁ

次なる田の神さぁを目指す前に、わたしには行きたいところがありました。実はとっても気になっていた場所。そこを目指して歩く歩く歩く。

どこまで歩けばいいんだい?

ときおり現れる案内看板を辿っていきます

暑いし汗だらだらだし、それよりも何よりも歩きすぎてすでに足が痛い・・・痛いよ・・・!!!

いつも歩きながら出会う植物に癒されています

ついに目的地近くの休憩所に到着。近くには民家しかないので、徒歩の身としてはトイレがあるのがとてもありがたかったです(もよおしたら野でするしかないからな・・・)。

立山のかくれがま(立山かくれ念仏洞)

これから行く場所についての解説もありました。以下解説板より抜粋。

南九州に一向宗が伝わったのは、室町時代とされています。江戸時代一貫して一向宗(真宗・浄土真宗)を禁止していたのは、薩摩藩と熊本県人吉市を中心とした相良藩の二藩だけでした。信者達は「南無阿弥陀仏」と、唱えることで自分の祈りの心を表していました。この「南無阿弥陀仏」を唱えることを「念仏」といいます。信者達が禁止されているにも関わらず、隠れて念仏を唱えていたので「隠れ念仏」と呼ばれています。

ここ「立山のかくれがま」もそんな「隠れ念仏」の史跡の一つです。「がま」とは鹿児島弁で山の傾斜などに掘った横穴のことで、立山の「がま」は目立たないよう竹山の中に掘ってあります。入り口は狭く、大人一人かがんでようやく入れるほどです。中は広く掘られ、入り口から北へ六メートル進み、そこから左へ四メートル程あり大人が立って歩け、空気抜きの孔もあったと伝えられています。また、「がま」のそばに椿が植えてあるのは、当時花を供えると役人に見つかってしまうかもしれないので、それと分からないように植えたということです。ただし、現在の椿は当時からのものが枯れてしまったので、新たに植えかえたものです。(後略)

そう、目指していたのは薩摩藩から一向宗を禁止されたにも関わらず隠れて念仏を唱えていたという立山のかくれがま。

公園を通り過ぎ、さらに歩いていくと、ついにそれが現れました。

竹林に囲まれた空間

左すみに小さな大人が屈んで入れるくらいの小さな穴が見えます。どうやらここが入口らしい・・・。こ、こわい・・・・・

センサーが反応して灯りが突然点灯してビクゥゥゥ!!!

ここを通るとセンサーが反応するようです。知らなかったから吃驚した

扉を開けて、ドキドキしながら中に入ります。

ドキドキドキ・・・

階段を降りて左に曲がるとすぐにぽっかりと空いた空間に出ました。右に顔を向けるとさらに小さな穴に仏像が納められています。この小さな洞穴で信者たちは念仏を唱えていたのですね・・・。

仏像の前にはお賽銭

わたしも手を合わせて「南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏・・・・・」。
唱えてからすぐ「怖い!怖いよ!!!」となってすぐに離脱・・・!!!

外の明かりが見えてホッ

こ、ここここわかったーーーーー。

お化けが怖いというよりも、誰かがやってきてこの薄暗くて狭い空間に閉じ込められたらどうしようかと。ここに来ることを誰にも言ってないから神隠しに合ってもわかりゃしませんぜ・・・。

日の光に安堵しながら穴の横にある祭壇に目を向けると、整備された当時の発掘の様子や内部の実測図の解説が掲示されていました。

立山はかごんま弁では「たっちゃま」と発音するんだね。かわいい

言葉だけは知っていて、その歴史についてはよく知らなかった隠れ念仏。宗教は違えどキリシタン弾圧と同じ宗教弾圧。敷地内には禁教下の日本のキリシタンを連想させる椿も植えられていて、単なる偶然ではあるけれど不思議とシンクロする部分があり、今年ずっとキリシタンを追いかけていた身としてはどうしてもふたつを重ねずにはおられないのでした。

敷地内に植えられている椿の葉と、かくれがま
(休憩所の解説の通り、現在植えられているのは当時のものではなく新たに植え替えられたもの)

秋の実りと田の神さぁ

ちょっぴり怖い思いをしたところで、田の神さぁ巡り再開です!!

また歩く・・・歩くぞ・・・・・

やっぱり秋

もこもこしたおもしろい植物もいた

旧道っぽい道を歩かされ・・・。

こっちであってるの・・・?Googleマップさん・・・いっつもスパルタだよね?

そして、やっぱり秋

あ、猫ちゃん!!!

塗木の田の神

そして、草ぼーぼーの場所でひっそりと佇む田の神さぁ。こちらのお方は1748年に作られたもので、右手に鍬(くわ)、左手に宝珠をを持ち、背中にはツト(藁などで作られた食べ物を入れる容器)を背負っている姿をしています。

塗木の田の神

近くからはビュンビュン車の走る音がするのに、と、通れない・・・!!という道に案内され、Uターンする場面も・・・。

Googleマップ先生、この道通れませんよね・・・?

果たして今夜、十五夜行事を見に行くことができるのだろうか。ここをいつ脱出できるのか分からず、ちょっと不安になってきました・・・。

人里へと辿り着くためにひたすら歩く

人気のない道を歩き続け、なんとか木々に囲まれた道を脱出・・・!!

ほっとしたーーーーー!ところに猫ちゃん・・・!!!(遠い)

そしてここからまだまだ歩き続け・・・

黄金色の稲穂

浮辺の田の神

いよいよ足が限界・・・自分的にたのしい風景もぜんぜんない・・・それを見つける余裕すらない・・・・・・

そんな苦しみの中でついに・・・

ラスト田の神さぁ発見・・・!!!

沈みゆく太陽に照らされる田の神さぁ

今夜、十五夜行事を見にいくのはこちらの田の神さぁがいらっしゃる浮辺地区。十五夜は秋の実りに感謝する行事でもあります。田の神さぁ巡りを締めくくるのに相応しいお方といえるのではないでしょうか。この辺には他にも田の神さぁがいらっしゃるのですが、我が足で巡るにはここまでが限界でした・・・。

ちょうど陽が暮れ出して、飴色の光が稲穂を照らしてキラキラと輝いていました。

秋の実り

収穫に感謝し、豊穣を願う十五夜行事に向けて、自然と気持ちがどんどん高まってきました。それが目的だったわけではないけれど、これから見にいく十五夜行事の意味を深く感じるためにも田の神さぁ巡りをしてよかったなぁとしみじみ思うのでした。

飴色の道を歩く

さて、今回訪れる浮辺の十五夜行事は、夜空に月が浮かんでからスタート。暗くなるにはまだちょっと早いけれど、そろそろその行事が行われる場所へと向かいましょう。準備する様子も見たいもんね!

落ちる陽は濃くなり、影が長く伸び始めます

十五夜行事の会場である浮辺公民館に向かって歩いていると、同じ方向に歩いていく親子やご年配の人たち姿がちらほら・・・。どうやら目的地は同じようです。その人たちに続いて公民館に到着すると、すでのたくさんの人たちで賑わっていました。待ちに待った十五夜が、いよいよ始まろうとしています。

【使用カメラ】digital:SONY α7III、iPhone SE2 lens:Carl Zeiss Planar 50mm F1.4 mmj、Flektogon Carl Zeiss Jena 35mm F2.8

02南九州・十五夜ひとり旅2023につづく▼▼▼